最初に会ったのは何かのオフ会だった。
なんかもうスワッピングパーティまがいの酷い飲み会。
途中でベロベロに酔った女の子の変わりっぷりにちょっと引いて、隅っこに避難して煙草吸ってたら同じようなことしてる人がいて、喋ったのが始まり。
車で30分ぐらいのとこに住んでたから、頻繁に会うようになるまでに時間はかからなかった。
今の俺とほとんど変わらない歳だったのに、もう子供が二人いて奥さんと別居中だった。(笑)
悪い遊びもいろいろ教えてもらったし、ボロボロのラングラーの幌開けていろんなとこドライブした。
いつでも余裕な顔して、俺はいつもからかわれて、俺がバイなのを打ち明けたときでさえ「やっと言いやがった」とか言って笑った。
「キスしてぇ」つったらエロいキスしてくれたから、調子に乗って「一回でいいからヤらして」って言い寄ったら殴られた。(笑)
「じゃあヤる方だったらいいの?してくれんの?」って食い下がったけど、安売りすんな、とかまた笑われた。
いつもつけてた香水の匂いと、低くてやわらかい声が好きだった。
あるときいきなり、その大好きな声に言われた。
「泰典ごめんな、会うの今日で最後にさせてもらうわ」
意味わかんなかったけど納得するしかなかった。
訊く権利俺にはないもん。
けど、「何で?」ってセリフ押さえらんなくて。
「なんかな、ノドおかしいらしくて、手術することなってな。
声帯いじるから、またこうやって喋れるかどうかわからん。
…電話もできん、名前も呼べん、じゃつまらんだろ」
そんなこと笑いながら言うなよ。
どんな顔していいか分からない。…実際俺はあの時どんな顔してたのかな。
喋れなくなったって弱いとこ見せられたって俺はまた会ってほしかったけど。
「子供の名前も呼んでやれなくなるんかなぁ」
って、いつもの余裕の笑顔が少し歪んだのを見たとき悟った。
この人は俺の前ではいつもカッコいい兄さんでいたいんだろうな、て。
弱いとこ見せて、全部吐き出したら楽になるかも知れなくても、それをやったら壊れちまう何かがきっとあって。
なにも言わずに音信不通にすることもできたのに、ちゃんと最後通告くれたから、俺も言いたいこと全部飲み込んでさよならした。
最後に名前いっぱい呼んでよ、て強請って、頭の中に録音するみたいに聴いた。
さっきね、思い出したよ、アンタの匂い。
まだちゃんと憶えてるよ、アンタの声。
…元気にしてるかな。

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